面白い本の表紙

もしくは美しき水車小屋の娘

私には女性の排卵が見える

私には女性の排卵が見える―共感覚者の不思議な世界 (幻冬舎新書)

排卵中の女性は周囲に抹茶色の空気を漂わせ、その体からはコマドリの鳴き声が聞こえてくる。また生理のときはその抹茶色がより濃くなる。…このように、女性の性周期を色や音によって知覚する著者が、幼少期から現在に至るまでに経験した不思議な世界と、これまで記録をとってきた50人以上の女性の性周期と彼女たちから見える色を基に、その知覚能力が一体何なのか思索する。文字や音に色を見たりする“共感覚”の持ち主による大胆な考察。

「大胆な考察」。

幻冬舎のことですから何か需要が見えたんですかね。

1982年、岡山県生まれ。東京大学教養学部中退。現在、財団法人勤務。幼少期より成人の今に至るまで持ち続けている特殊な感覚が、生理学上「共感覚」と呼ばれるものであることを二十歳の頃に知り、フリーの立場で研究を進め、執筆・講演活動を行う。

どんな「講演活動」をしていることやら。

タイトルの『私には女性の排卵が見える』は『ぼくには数字が風景に見える』のパロディっぽい。

ぼくには数字が風景に見える

こちらは共感覚ではなくサヴァン症候群

ぼくが生まれたのは1979年の1月31日、水曜日。水曜日だとわかるのは、ぼくの頭のなかではその日が青い色をしているからだ。水曜日は、数字の9や諍いの声と同じようにいつも青い色をしている。ぼくは自分の誕生日が気に入っている。誕生日の含まれている数字を思い浮かべると、浜辺の小石そっくりの滑らかで丸い形があらわれる。滑らかで丸いのは、その数字が素数だから。31,19,197,79,1979はすべて、1とその数字でしか割ることができない。9973までの素数はひとつ残らず。丸い小石のような感触があるので、素数だとすぐにわかる。ぼくのあたまのなかではそうなっている

とか、ものすごく面白いです。

サヴァン以外にトゥレット障害やパーキンソン病を扱った『妻を帽子とまちがえた男』も面白い。

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

医師である著者がそのマッチを拾って数えると、それはきっかり111本あったという。 「どうやってそんなに早く数えられるの?」 「111が見えたの」 「37といったのはなぜ?」 「37と37と37で111」 瞬時のうちに「111」と叫んだのも驚きだが、彼らは「37」と3度言った。

映画『レインマン』でもこんなシーンがありましたね。

レインマン [DVD]

著者は映画にもなった『レナードの朝』の オリバー・サックス氏

ほかにも高機能自閉症を扱った『火星の人類学者』や、先天性全色盲の『色のない島へ』など、人間の脳の不思議さを感動的に描く素晴らしい作家です。

レナードの朝 [DVD]

火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫NF)

色のない島へ―脳神経科医のミクロネシア探訪記

共感覚の本に話を戻せば、『ねこは青、子ねこは黄緑』とか『カエルの声はなぜ青いのか?』などがありました。

ねこは青、子ねこは黄緑―共感覚者が自ら語る不思議な世界

カエルの声はなぜ青いのか? 共感覚が教えてくれること

青い猫といえば萩原朔太郎の詩集に『青猫』なんてありましたね。

青猫 萩原朔太郎詩集 (集英社文庫)

 青猫

この美しい都會を愛するのはよいことだ
この美しい都會の建築を愛するのはよいことだ
すべてのやさしい女性をもとめるために
すべての高貴な生活をもとめるために
この都にきて賑やかな街路を通るのはよいことだ
街路にそうて立つ櫻の竝木
そこにも無數の雀がさへづつてゐるではないか。

ああ このおほきな都會の夜にねむれるものは
ただ一疋の青い猫のかげだ
かなしい人類の歴史を語る猫のかげだ
われの求めてやまざる幸福の青い影だ。
いかならん影をもとめて
みぞれふる日にもわれは東京を戀しと思ひしに
そこの裏町の壁にさむくもたれてゐる
このひとのごとき乞食はなにの夢を夢みて居るのか。

青空文庫より。

ただ、 共感覚 の感じ方は一致しておらず、猫が青以外の色に見えたりといろいろだそうです。

ところで「黄色い声」とか「青二才」とか、この言葉を作った人は共感覚者だったんでしょうかね。